Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『母上がご懐妊なされた当時、周囲の配慮で安定期まで公表は見送られました。ご公務をセーブし、あまり姿をお見せにならなかったのはご周知の通りです』
私の話で年輩の記者が当時を思い出したのか、得心がいったような顔をしていた。
皇族や王族という存在は一挙一動が注目される上に、どの国のメディアもあることないことをセンセーショナルに書き立てるものだ。
だから、母上――当時は王太子妃殿下――が公務を減らすなどの明らかな動きがあれば、あれやこれや想像を膨らませられていたはずだ。
その中には当然懐妊という推測もあっただろうが、結局御子は生まれずご懐妊の公表もなされなかったのだから。国民からすればあくまでも推測の域を出なかった……はずだったのだ。
『異国より嫁がれた母上のご心労は相当なものでした。慣れない環境で受け入れられているか不安で仕方ない……そこでようやくご懐妊され、どれほど安心されたでしょうか。
しかし……それはあっけなく消えてしまいました。とある思惑によって』
はっ、と誰かが息を飲む音が不思議なほど鮮明に聞こえた。無理もない。常に予定調和でなあなあなまま終わる定例会見で、交換留学の話をした上に次々と衝撃的な発言をしているのだから。ついてくるだけで精一杯なのだろう。
だが、ここまで来たからには付き合ってもらう。