Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
会見場は一瞬で静まり返る。誰もが周囲の様子を窺いながら、次の言葉を出すのを躊躇っていた。
それもそうだ。母上のお腹の子が生まれなかったのは悲しい出来事だが、これだけでは事件にもならない。いちいち公表する必要があるのか、誰もが疑問を持つだろう。
むしろ、当事者である母上や周囲の心情を配慮していないという非難に繋がるはずだ。
だから、私は反論を封じ込めるために先んじて断言しておいた。
『この件は、母上のお許しをいただいた上で明かさせていただきました』
はっ、と誰かが息を飲む。やはり私への非難をしたかったらしい。フッ、と苦笑いが微かに口元に浮かんだ。
『母上にはむしろ後押ししていただきました。同じ悲しみを繰り返さぬように、と』
「…………」
『母上の名誉のために申しあげておきますが、母上はご懐妊が判明した後からいつも以上に身体に気をつけておられたようです。無理はなさらずに労りながら、最小限のご公務をされておられたとか。母体の無理の結果ではない……それは典医長の見解にもあります。それを頭に入れた上で、次のページへお進みください』
紙を捲る乾いた音があちこちから聞こえ、すぐにまた小さく戸惑う声が上がった。
それもそうだろう。今の話と全く無関係と言える記事がそこにはあったのだから。
私が二番目に持ってきた資料は、地方のある橋の欄干が壊れ転落したというあの地方紙の小さな記事。
案の定、記者団にはざわめきが広がっていった。