Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



『地方で起きた事故ですか。失礼ながら、この記事が今のお話と何のご関係があるのでしょうか?』


記者の一人がそう切り出すと、多数の人間が頷く。


『そうですね。ただそれが単なる事故ならば、私も取り上げることはありませんでしたが……しかし』


一度、言葉を切り記者団をぐるりと眺める。案の定、隅の方で怪しい動きをする記者を見つけた。


――PK社。国内の新聞社としては大手だが、たしかタヌキの息がかかっていたはずだ。その記者はやたらとタブレットを操作している。こちらが出した資料を流すのに必死らしい。


資料は直前まで秘匿扱いだったし、会見場に入ってから手渡した上に持ち出しは完全に禁じてある。数は申請通りにしか用意してなかった上に、デジタルデータではなく紙で印刷したものを使った。


デジタルデータではコピーが容易な上に、容易く外部に漏らせるが、紙の資料では易々と外へ送れない。会見場にコピー機やスキャナなどないし、仮に持っていたとしても外部持ち出し禁止の通達がある以上、会見場で使えるはずもない。


会見場を出る時は必ず紙の資料をこちらへ預ける形を取っている徹底ぶりだ。


もしもスマホのカメラや小型カメラで撮影しようとしても、特殊な印刷方法を使用しているからカメラでは写らない。


つまり、目で見たものを手打ちで送るしか方法はないのだ。だから、その記者は今必死になってタヌキへ送っているのだろう。


そして、私はわざと挑発的にそちらを見ながら口を開いた。


『それが事故ではなく――事件でしたら、話が変わってくるのではないでしょうか』



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