Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『あれは、20年ほど前に一度疑惑が持ち上がった時だの。公爵が必死に揉み消したはずじゃが、よく映像が残ってたものだ』
祖父が顎を撫でながら興味深い発言をされた。 確かに、映像のシュトラウス公爵は今より幾分か若い。20年前と言えば、私が桃花に出会ったころ。当時の政治については憶えてないが、確かに少しだけ周囲が慌ただしかった記憶がある。
『もしかすると粉飾決算に関してですか?』
私が告発する件のひとつを挙げてみれば、祖父は『いや』と目を細める。
『そんなものはまだ可愛いものじゃ。もっとおぞましい……人としては手を出してはならぬ領域をおかしたのやもしれぬ』
いつも朗らかでにこやかでいらっしゃる祖父が、珍しく眉間に深いシワを刻み難しい顔をしていた。画面のシュトラウス公爵を睨み付けているのは気のせいではない。
『ヴァルヌスで医薬品産業が盛んになったことは、確かに国にとって僥倖じゃ。じゃが……その下地に声にならぬ犠牲があったことは忘れてはならぬぞ』
『お祖父様?』
血の気を失うほど強く握りしめた拳はブルブルと震えている。嫌な予感がした私は、それ以上訊けずにただ画面に目を戻した。