Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『やはり、噂は誠であったか』
祖父は厳しい顔つきで顎に手を当てた。
『噂、ですか?』
噂とは言ってもたくさんある。祖父がどれを指しておっしゃるのか解らず、おうむ返しで先を促した。
テレビ画面にはまだ医療疑惑についての映像が流されている。被害者の遺族の証言が匿名で出ているが、祖父は苦り切った表情で眺めていらしたが。いつもは穏やかなその瞳に明らかに宿ったのは、“怒り”だった 。
『……ヴァルヌスの侍医の中でも、抜群の実績を上げ厚い信頼を寄せられていた医者がひとりおった。ワシと同世代で貴族出身ではあったが、傲らず控えめで謙虚な性格でな。どんな立場の患者でも分け隔てなく真摯に治療したものじゃ』
『……それが真実であれば、理想的な侍医ですね』
『そうじゃ。事実、そいつは侍医として推薦された時も遠慮して一度辞退するほど、無欲な人間だった……』
“だった”?
過去形で語ることが気になり、私は祖父のお顔をじっと見た。トントンと顎を人差し指で叩いた祖父は、苛立ちをあらわにして眉間のシワを深くする。
『人間、変わってしまうのはよくあることじゃ。だが、悪しき方向へはなんと容易く様変わりすることか』
ギリ、と歯噛みする音が聞こえるようだった。
『その男は王室専属の侍医になったが……あやつによって、息子は殺されたも同然じゃ。そして、サツキ殿の子が流れたのもな。じゃからカイ……ワシはおまえを日本へ避難させたのじゃ。おまえにも息子と同じ薬が使われていたのだからな』