Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
父上が……未認可の薬物を投薬されていた。その事実は頭を真っ白にするには十分で、資料を持つ手の震えを抑えることができない。
恐れやショックからではなく、怒りで。
“人を殺したいほどの憎悪”というものを、初めて抱いた。
生来父上は心臓が弱く虚弱体質で、成人まで生きられるかと危惧されたが。両親である祖父母の手厚い看護と、最先端の治療と。何より本人の強い意思と努力が実を結び、大人まで生き延びたのだ。
初恋である弥生を迎えてからも、彼女を幸せにするため必死に生きようとされていた。
きっと父上は最愛の人を自国迎えるために、相当な無理をされたはずだ。ヴァルヌスの血を引くとは言うものの、日本人である弥生を迎えるのは保守派の議会から猛烈な反発を喰らったはず。
おそらく、シュトラウス公爵は娘を王太子妃にと目論んでいたはずだ。しかし、父上は断り異国の娘を迎え入れた。
それが、あのタヌキの逆鱗に触れたのだろう。
父上を目の敵にしたシュトラウス公爵は、息子に王女を降嫁させる確約を得ることで将来的に身内で生まれる王孫の確保をし、意のままにならぬ邪魔な王子を排除しようとしたのか。
将来の王位はグスタフ王子の系統ではなく、妹のマリアンヌ王女の生む血筋に。伯母は大人しい“お姫さま”だったから、あのタヌキが意のままにするには容易かっただろう。
タヌキのただひとつの誤算は、マリアンヌ王女も身体が弱くフランツを生んですぐ亡くなったことか。
しかし、マリアンヌ王女が息子を遺したことでタヌキがグスタフ王子の血統を潰そうとしたしたことは明白だ。私の父であるグスタフ王子を葬った後、唯一の遺児である私の暗殺を目論んだのだから。