Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『案の定タヌキは罠に掛かりましたな』
バーグ卿から愉しげな声で電話が掛かってきたのは、夜も明けきらぬ午前6時だった。
シュトラウス公爵が検問や封鎖を潜り抜けるために、道路ではなく鉄道を利用するのは予定通り。険しい土地が多いヴァルヌスでは、一般道で行けない部分は鉄道を利用するケースも多い。それだから逃走ルートの鉄道を想定し、鉄道王でもあるバーグ卿の協力を得ておいたのだ。
『今のところ細工が効き橋の真ん中で車体ごと立ち往生しておりますよ。いかがなさいますか?』
バーグ卿に頼んでおいたのは、鉄道専用の鉄橋しかない長い橋の途中で電車を止めるというもの。だが、止めるだけならば逃げられる可能性がある。電車の運転席では前進と後退を切り替えるレバーがあり、それを使えば後ろに運転も可能。陸へ戻り車両から降りれば逃亡されてしまうだろう。
それゆえに、わざとレバーに細工した車両を使わせたのだ。
車両に着けた機器でジャミングし電波を遮断したから、通信機器類は一切使えなくしてある。
後は、篭の中の鳥と同じだろう。
アルベルトから警察と陸軍の特殊部隊の投入の報告を受け、ようやく椅子に腰を落ち着ける。
――戦いが終わる。
いや、と両手の拳を握りしめた。
タヌキはあくまでも象徴に過ぎない。他にもまだまだ悪どい連中はたくさんいる。一見無害だったり人当たりのいい連中ほど厄介なのだ。
長い戦いが今始まるのだ、と気を引き締め直した。