Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
緊張を孕む空気が、肩にずっしりとのし掛かってくる。
この1年、様々な相手と相対したと言うのに、今ほど重圧(プレッシャー)を感じたことはない。
私と対面する人々は無言で報告書に目を通している。紙を捲る乾いた音だけが、狭い室内に響いていた。
パタン、と一番手前のひとが書類を閉じる。どうだったと訊きたいのを堪えつつ、彼女の反応を待つ。
ふう、と大きな吐息が一つ。よもや物足りなかったのか? との恐れを抱き、ビクッと肩が跳ねた……のは内緒だ。
彼女は用意されたティーカップを手に取り、優雅に紅茶を口にする。早く結論を知りたい身からすれば苛立つが。騒いだところで心象がよくなる訳でもなく、ひたすら耐えるしかなかった。
カチン、とカップをソーサーに戻した彼女――富士美は、おもむろに口を開く。
「うん、まあまあね」
それは、紅茶に対してなのか? それとも私への評価なのか? 早く教えてくれ! と叫びたくなるが、グッと言葉を飲み込む。
「ま、カイにしては頑張った方ではないかしら?」
フォローのつもりかどうかは知らないが、富士美の隣に座っていたマリアがそう言ってくれた。
「そうだね~僕の下準備を存分に使い、最小限の行動で最高の成果をあげてるんだもん。もっと評価を上げてもいいんじゃな~い?」
何とも気の抜けた返事をしたのが、マリアにべったり張り付いてる雅幸。ちなみに、やつのティーカップはマシュマロで埋めつくされており、その上砂糖と蜂蜜でコーティングされている。一体何の飲み物かと突っ込みたい。
「……まあね。これなら桃花ちゃんを迎え入れても支障はないかもしれないわね」
富士美が渋々と出した評価に、自然に心が浮き立った。1年前にした約束を果たせたのだ、と安堵の気持ちが胸に広がる。