Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『桃花は何て言ってたの?』
通訳でもある乳母に訊ねてみても、渋い顔をして教えてくれなかった。ただ黙って顔を横に振り、察しろと言わんばかりに顔を歪ませる。
桃花は夢の中でさえ、ひどい目に遭い続けているのだろう。2年前の出来事はそれほどまでに、彼女の心身を傷つけ苦しめているのだ。そう考えたら、村田家も奈美も許せないと怒りを覚えた。
『何で……何もしていない桃花がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!』
部屋から出た後怒りのあまりに私が肩を震わせていると、乳母はそっと背中に手を添えて水科家のリビングにあるソファに座らせてくれた。
『……村田家は地元の名士ですから、逆らえる人間がいないのですよ。警察庁の幹部とも繋がりがありますから……大抵のことは揉み消してしまいます。彼女のことも、娘の奈美が危害を加えたことにはなっていません。医師の買収でのカルテや調書の改ざんなどお手のものですからね』
まだ5歳の自分には難しい内容だらけでも、村田家が悪いことをしてきたとうっすら理解する。
権力の横暴さで桃花が傷つけられ、今も苦しんでいるという現実。許せない――と思うと同時に、自分が何もできない無力さを味わい悔しいと思う。
(……力が、欲しい。桃花を守れる力が)
生まれて初めて、強くそう願った。