Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「アルベルトが……日本の女性と?」
良くも悪くも、彼はバリバリの保守派筆頭。そういえば共闘が終わった後はまた婚約者について煩く口出しして来るかと身構えていたのに、不思議と何も言わなくなっていた。
あの時は忙しいせいだと考えていたが、そう言われれば兆候はあったかもしれない。
『殿下、日本は美しいいい国ですね』
あれはいつだったか……議会の改革が大詰めを迎えたあたりかもしれない。ほぼ徹夜で書類と向き合っていた最中、電話してきますと席を外したアルベルトが、戻った途端にポツリと漏らしたのだ。
それまで日本にいた時すら、日本を褒める言葉などひと言も口にしたことがなかったというのに。そして、彼は疲れを滲ませた表情をいつもの顔に戻していた。いや、むしろ精気溢れる様子で、一体どうしたんだと引っかかった。 その違和感は強烈で、忘れようとしても忘れられない。
思えば、あれは。最愛の女性に電話していたのだろう。ヴァルヌスと日本では時差がある。きっとこちらが深夜だからこそ声を聞けたに違いない。
「アルベルトが……日本人女性を恋人にしたのか」
あり得ないと思っていた組み合わせだが、その意外性に驚きながらも安堵した。
なぜなら……。
「……アルベルトも、ようやく愛する人を見つけられたか」
結婚などしなくても困らない、と私の話を一蹴した彼も、ようやく人間らしくなってきた。友人とは言えないが、幼なじみの生まれて初めての恋に、祝福したい気持ちで一杯になった。
「彼のことは問題ないでしょう。あれで反対すれば自分が彼女を迎えられないもの。あっさり許してくれるはずよ」
マリアの力強いひと言に、思わず苦笑いを浮かべたのだった。
「そうだな……もしかしたら来年はともに大聖堂の鐘を鳴らせるかもしれない」