Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
コンコン、と控えめなノックに立ち上がったアルベルトが他の侍従よりカードを受け取る。
ご苦労だった、と労う彼は数年前とはまるで別人のようだった。
今まではどんな困難な仕事を果たした人間でも、義務を果たしただけだと礼のひとつも言わなかったというのに。どうやら恋愛が彼を人間らしく成長させてくれたらしい。表情も柔らかく人当たりがよくなったとの評判を、彼は知らないだろう。
『殿下、富士美様よりご連絡がありました』
『なんだ?』
アルベルトが報告を受けたカードを目にして、一瞬複雑そうな顔をしたものの。すぐにそれを引っ込めて淡々と報告をしてきた。
『明日の午後3時30分の便で彼女は到着します――それだけです』
思わず、持っていたペンが滑りそうになった。サインがめちゃくちゃにならずに安堵しながらも、ようやく来た来るべき時に、胸の高鳴りを抑えられない。
『アルベルト』
『はい』
『――明日、私は頭痛腹痛で午後は休むぞ』
『……かしこまりました』
一瞬、アルベルトは含み笑いをしてすぐ真面目な顔に戻りスケジュール変更の指示を出すべく他の侍従を呼び出す。
……いよいよ、あなたに逢える。
きみは、どれだけ綺麗に輝いていることだろう。
ずっと胸に提げてきた雪うさぎの赤い実を入れた小袋を握りしめながら、目を閉じて明日に思いを馳せた。