Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
それから毎年夏になると、お忍びで来日した。表向きは雅幸に会うとしていたが、実際には桃花に会うため。
寝顔の桃花に再会してから、私はとにかく日本語を集中的に習い始めた。母上との会話は全て日本語という課題を自ら課し、徹底的に身に付ける訓練をする。
ただただ、桃花と話したいがために。桃花に会って謝りたいし、許されるなら彼女ともっと話がしたい。その一心で、次の年にはほとんどの単語を理解出来るようになっていた。
それでもやはり意気地無しの私は、桃花に会うのは真夏の夜にだけ。まだ悪夢に苦しむ桃花を救いたいと思いながら、ただ手を握り頭を撫で励ますしかできなくて。
再会して3年目の夏――雅幸の高宮家に村田家の不正を掴んで貰った。
それから地道に証拠固めをしてもらい、私が10歳の夏に村田家から来た縁談の話。その頃村田家はかなり危ない橋を渡り、家が傾いていたから起死回生の一手だったのだろう。
ヴァルヌスはあちこちに鉱山があり、レアメタル等が産出する豊かな国だ。医薬品や精巧な機器を作るのにも長けている。小さな国だが、規模の割には国家予算が大きい。それを当てにしていただろうが、ちゃんちゃら可笑しい。
幼い桃花にあんな仕打ちをして傷つけたばかりか、一人娘の奈美は桃花を一年間苛め通しだったそうでないか。そんな腐った連中を、許すと思うか。
その上そんな異様な娘を、ヴァルヌス王子の私にだと?厚顔無恥も甚だしい。 と私は怒りのあまり、雅幸を通じて村田家を徹底的に潰した。巨額の借金が露呈し、犯罪行為が暴露され社会的地位や信頼が失墜。夫婦は娘を置き去りにして夜逃げしたらしいが、その行く末など何の関心も持てなかった。