Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
リクエスト番外編集
雪菜~アルベルト1
――自分が落ちるものなど、決してないと思っていた。
――雪菜。
『まったく、毎日毎日懲りませんね。あなたは』
出そうなため息を飲み込むと、私はゆっくりと眉を上げて目の前の長椅子に座る人物を見遣る。
ダークグレーにストライプの入ったスーツを着たその人こそ、私の主人であり長年仕えたカイ王子。まもなく正式な立太を迎えて王太子殿下となられる、このヴァルヌス王国唯一の世継ぎだ。
だが、このご本人にその自覚があるのかは大変疑わしい。
なぜなら、まもなくご成婚の儀を迎えるというのに、熱に浮かされたように女の元に通いつめているからだ。
20年来の想いが成就すれば、誰だとて幸せだし嬉しいだろう。ましてやカイ王子と女は何千kmと離れた距離をものともせずに結ばれるのだ。多少浮かれるのも仕方ないと言える。私だとて多目に見るつもりではいた。
しかし、忍耐強い私にも限度はある。腕を組みながら私はカイ王子へ絶対零度の視線をくれてやった。
『――誰が女のもとに1日入り浸れと許しましたか? 今のあなたは最低限の義務すら果たしていない。ご自身の職務を放棄するならば、残念ながらわたくしはあなたのご成婚を取り止めるよう国王陛下にご進言するしかないでしょう』
私が出した切り札に、さしものカイ王子も凍りついたようだった。
熱病に浮かされた沸騰した頭でも、何とか冷まさせることには成功したようだ。疲労感を感じながら、この先の苦労を思い遣り額に指を当てた。