Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『アルベルト様、いかがなされました?』
『別に、何もないが?』
翌日。全日程を無事に終えた私は、帰国の途につくため部下の運転する車に乗り空港へ向かっていた。
何を訝しく思ったのか運転席の部下がそう訊ねてきた。私は当然ながら何でもないと答えるし逆に訊き返した。
『私がなにかおかしいか?』
『え、いえ。かなり慌ただしい日程でしたから、アルベルト様もかなりお疲れなのでは?と。さっき、ぼんやりされてましたから』
『……そうか』
ぼんやりしていたのは確かだから、認めないわけにはゆくまい。自分でも疲労感が強く残っているとは感じている。
正直、タイトなスケジュールだった。実質的に3日しかない日数で、外交と犯罪に関わる実務を単独で行ってきたのだ。しかもカイ殿下の代理という重要な責務もある。
いつも以上に神経を尖らせて、指先にいたるまで振る舞いに気を遣った。訓練で慣れてるとはいえ、本国から遠く離れた地での責務は正直、二十代半ばの若造に過ぎぬ私には荷が重い。
本国では私が感情のないロボットだの、冷淡な男だと評されているのは知っている。
だが、私だとて人間なのだ。疲れもするし様々な感情も持ち合わせている。ただ立場を慮り、感情的にならぬよう極力抑えてるに過ぎない。
カイ殿下のように喜怒哀楽が豊かな主人に仕えねばならないのだから、彼の感情に合わせて一々怒ったり悲しんでいては何も始まらないし、終わらないのだ。
王子が怒るのならば、逆に冷静にを心がける。喜んでいるならば、反対の悪い事態を想定し対策を考える。感情を一緒に暴走させてしまうなら、ストッパーの役割は一体誰がするというのだ?
私の立場こそ一層冷静さと公平さと広い視点に洞察力が求められる。誰も好き好んでこんな役割を果たしている訳ではない。