Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『少しだけ窓を開けましょうか?』
『ああ、頼む』
今は昼過ぎではあるがかなり暑く、直射日光の熱でジッとしていても汗ばむほどだ。
部下の気遣いに素直に頷くと、私が座る左側の窓ガラスが少しだけ開いた。入り込む風でわずかながら涼感を得る。
だが、信号待ちで車が停まってしばらくして、予想外の事態に陥った。
真っ白で丸い物体がゴムまりのように跳ねた後、あろうことか開いた窓ガラスから車内に入ってきて運転手の部下のところへ飛んでいったではないか。
『わ、何だこれは!?』
唐突に現れた謎の物体に部下は混乱気味で、信号が青になっても車を発進させる素振りもなく。多少落ち着きがない部下だが、こんな些細なことでこれだけパニックになっては、いざというときに咄嗟の対処はできまい。
気の毒だが配置転換を人事院に具申した方が本人のためだろう、と考えながら私は白い物体に目を遣る。
忘れるはずもない。つい昨日この生物のお陰で不本意な言葉を見知らぬ女から叩きつけられたのだ。どうして忘れようがあるだろう。
『ゲイル、それは犬だ。それより車を動かしてあの駐車場に入れろ。これを解放せねばならない』
『え、しかし。今寄り道してはフライトに間に合わないのでは?』
『最短ルートならば問題ない。それより早くその犬を。おまえが本国で飼いたいなら別だがな』
『……は、はい! わかりました』
犬嫌いの部下は真っ青になって私の指示に従い、近くの100円ショップの駐車場に車を入れた。
この犬がいるということは、あの女が近くにいるのだろう。面倒だが、ちょうど昨日の謝礼を渡せば良いかと考えを改めて車のドアを開いた。