Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「あれだけ言ったのに、まだわからないのかよ! あんたは!!」
女は肩を怒らせながらずんずんとこちらへ歩いて来る。そして、私の手を掴みいきなり引っ張ろうとした。
「来い! あんたのその腐った根性を叩き直してやる!!」
「ちょっ……あんた、この方に何をする!」
ポカンとしていた部下が慌てて下車し、女を止めようと体を割り込ませてきたが。女の勢いはそれだけで止められるはずもなかった。
「知るはずないだろ! 名乗りもしないやつの名前なんか!!」
女はそう怒鳴り付けてきたが、微かな動揺が伝わってくる。もしかすると――私はこの場所に現れた女の行動から、確信に近いものを得ていた。
「不思議ですね。なぜ、知りもしない相手の帰り道に“偶然”いらしたのでしょう? しかも、手土産までご用意していただけて」
私の当然な指摘に、女性は僅かに動揺を深めた様子。追い討ちをかけようとしたところで、パッと手を放した女はあっさりと認めた。
「ああ~そうだよ! あたしは知ってた……ていうか、昨日あんたが帰ってから調べたよ。ヴァルヌスの貴族さま!!」
それと、と女はばつが悪そうな顔をした。
「名乗りもせず、いろいろと悪かったな。あたしは幸村 雪菜(こうむらゆきな)だ。年は24。この100均で働いてる」
雪菜と名乗った女は私の正体を知ってもなお、腰に手を当てて挑戦的に睨み付けてきている。
どこを、どう間違ったのか。後で何度思い返しても不思議だったのだが。
この時の私は、女の挑発にわざと乗ることにしたのだ。
『ゲイル、私のフライトはキャンセルだ。おまえはこれを持って本国へ戻れ。私はまた手続きをして後から戻る』
『え、アルベルト様!?』
部下に書類を押し付け無理矢理車に押し込んだ後、先に行けとジェスチャーで車を発進させた。