Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
ゲイルは相当渋ってはいたが、上司命令で仕方なく離れていった。彼の運転する車が流れに乗り完全に見えなくなったのを確認し、私は身体ごと女へ向き合った。
「私は、アルベルト·フォン·ハイドリヒだ」
「知ってるよ」
こちらが名乗ったというのに、雪菜はまだ睨み付けてくる。 両腕を胸の前で組み、何がなんでも戦おうという意気込みを感じられる。完全な臨戦態勢に、僅かながら興味を抱いた。
「それで? 私の根性を叩き直すというならば、具体的なプランは?」
私がそう訊ねると、雪菜はシュッと腕を上げる。片手は腰に当てたまま、ビシッと私を人差し指でさした。
「決まってるでしょうが! こんな短時間で思いつくはずないって。まだ、何にも考えてないわい!!」
「……」
胸を反らしながら堂々と言い放つが、考え無しをそんな恥ずかしげもなく言いのける。
(なんだ、この女は。馬鹿か? 馬鹿なのか)
呆気にとられた私は、あまりのバカバカしさに思わず噴き出した。
「あ、こら! なに笑ってんだチクショ~。どうせあたしをバカにしてんだろ!」
肩を揺らして笑う私に、雪菜は顔を真っ赤にして怒鳴り付ける。私は謝るつもりもなく存分に笑わせてもらい、彼女は地団駄を踏んで悔しがった。
「チクショ! 笑わせるためにあんたを呼び止めたんじゃない!! こうなったらぜったい、あたしがあんたを笑ってやるからね」
雪菜は私の腕をがっちり掴むと、100円ショップに引きずり込まれた。間が抜けたベルの音とともに、店員のやる気なしの挨拶を受けて店内に足を踏み入れる。
「好きなの選びな! ここはこの雪菜様のおごりだからね」
なんて言ってなぜか赤いかごを持たされた。