Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
赤と白
「カイ、日本に行ってみたい?」
母にそうはっきりと訊ねられたのは、ベルンハルト城のあるカッツエが真っ白な雪景色に包まれた季節だった。
ヴァルヌス王国。
かつてヨーロッパに巨大な版図を築いたハプスブルク帝国の領土の一部であり、かの帝国が1918年瓦解した時に独立した国の一つだ。
それから約100年王政を貫いている……とは言っても議会はあり、国民を代表する一院制の議員は選挙で選ばれる。世界的に民主化の流れは止まらないが、ここヴァルヌスでは議会の発言力と国王の権力はうまい具合に分割されている。
国王と議会双方がいい意味で互いの抑止力となっているのだ。
だから、暴君が出たら議会の力で国王の退位を要求できるし、逆に議会が腐敗し機能不全に陥るようなら、国王の権限で解散することができる。
独裁者が生まれにくいこのシステムは、ヴァルヌスの誇りでもあった。
現在の国王はアッティラ·フォン·ツヴィリング一世。私の祖父だ。
祖父は初めての孫である私を大層可愛がって下さった。
ただ、ご自分の御子である私の父――グスタフ王子が病がちなのを大変気に病んでいらした。