Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「痛いよ~!マリアさんがひどいよぅ」
しくしくと泣くふりをする雅幸に、呆れながらも問いかけた。
「……それで? 本当の目的は何?」
雅幸は普段から間抜けな顔と言動でおちゃらけたキャラを演じているが、その実恐ろしいほどに頭の回転が早い。 場の機敏には人一倍敏感で、全てを素早く理解し流れを変えるのも得意。
雅幸の表向きの顔を信じを侮った連中が、悉く身を持ち崩すのを見てきた。笑顔の雅幸に陥れられたからだ。
いじめてきた同級生は両親が不仲になり、離婚。引っ越しのために転校していった。
雅幸を軽んじて裏でモラハラをしていた中年教師は、痴漢を働いたとして懲戒免職になり学校を去った。
これはごく一部だが、本人は語らずとも高宮繋がりのある人たちが教えてくれた。
だいたい、雅幸は5つの頃から祖父王相手に笑顔で脅しを使うとんでもない肝が据わった性格だった。だから、当然と言えば当然。
そんな腹黒いヤツが持ち出してくる話なんて、裏があるに決まってるから警戒心を露にして牽制しておいた。
「そんなの、何にもないよぅ」
めそめそ泣くふりをする雅幸に苛立ちを感じながら、辛抱強く続きを待ち。そして。
「……水科 桃花ちゃん。夏だけじゃなくって、いつも会いたくない?」
いたずらっ子のような笑みを浮かべた雅幸の言葉に、しばらく返す言葉がなかった。