Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編





「このようなありきたりの場所で撮影する価値などあるか? それにインスタントのフィルムカメラなど。撮影するならば、一眼レフカメラを使用する」
「うっさい! いちいち屁理屈捏ねてないで、あんたは黙って撮ってろ」


若干キレ気味で雪菜は私を睨み付けると、「ついてこい!」と顎で指し示すから止むなく彼女の後に続いて足を踏み出す。


雑草を掻き分け道ならぬ道を進んで行けば、あちこちに雑草の種やら綿帽子が着いて顔が歪むのを感じた。別に値段のことをとやかく言うつもりはないが、日本円ならば50万はするフルオーダースーツを喜んで汚す趣味はない。
まったく因果なことだ、と諦め気味に雪菜の後に続いて到着した先は――鬱蒼と繁った緑陰のなか。


要するに木々の間に入り込んだ雪菜は、ガサッと音を立てた私に「しっ!」と唇に指を当てた。


「あんまし音を立てんな。気配も断て。ほれ、こっちから覗いてみろよ」


音を立てぬように気をつけつつ、雪菜が指差した先にある木々の隙間に目を向けてみる。カメラを構えろと言われたが、それをスルーしてよくよく目を凝らせば。見えてきたものがある。


中洲の中にある繁茂した木々のそばにある流れ。そこに灰色の羽をした一羽の大きな鳥。オレンジ色のくちばしと黄金の瞳を持つ鳥は、鶴のように首と脚が長いが鶴には見えない。


「綺麗だろ~アオサギって鳥さ。ヨーロッパじゃいないだろ」


雪菜は得意げに鼻を鳴らすが、私は極めて冷静に返答をした。


「アオサギならばヨーロッパにも普通に姿を見るが?」

「え……」


その時の雪菜の顔はなんと表現したら良いものか。ムンクの叫びをそのまま現実(リアル)にしたもので、とても人間とは思えない笑いを堪えるのが難しいものだった。

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