Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「ほら! これ100円もするんだぞ。駄菓子の中じゃ高い。ちっちゃい子どもの憧れさ」
雪菜は妙に強調するが、香りからして安っぽい。香料の使いどころからやはりそれなりの原料なのだと判る。
原料を見れば案の定苺は使用されていない。どうやらチョコレート菓子らしいが、これでイチゴ味と表示するのははなはだ不思議だった。
「香りと色でイチゴと錯覚させる菓子か」
「そうかもしんないけどさ、これがいいんだよ。雰囲気を楽しむってやつさ。どうせあんたはスイーツなんて一個千円くらいするのを楽しむのが当然かもしんないけど、庶民の子どもなんてそんなもんしょっちゅう食べられるわけじゃないんだよ?
イチゴ本体だってめちゃくちゃ高価なんだ。
だから、普段はこういうのやちょっとだけイチゴを使ったお菓子でイチゴを楽しむのさ」
ほら、と雪菜は私の持った菓子のパッケージを破る。イチゴの香りを模した人工的な香料が鼻腔をくすぐる。
だが、私は雪菜の先ほど話した内容にショックを受けていた。
(苺が食べられない……それが庶民というものなのか)
ヴァルヌスでは標高から苺の栽培には適してないが、ハウス栽培の苺が出回っている。望めばデザートやスイーツに出されるのは当然だったから、そう高価でないという印象を抱いていたのだが。
スーパーでたかだか1パック980円のハウス栽培ものを、食べられない人間がいる。そのことに衝撃を受けた。