Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
これが、貴族と庶民。国の違いのギャップというものか。カルチャーショックを受けている私に、雪菜は開いたジャイアントカプリコをずいっ! と差し出してきた。
「ほら! 一度食べてみな。論より証拠と言うだろ。いいみやげ話になるさ」
「…………」
おそらく、私が無意識に不愉快そうな顔つきでもしたのだろう。雪菜はムッとした様子で、いきなり私の鼻を摘まんだ。
「……なにす、あがっ!」
抗議しようと口を開いた瞬間、かぽん、と菓子が口内に突っ込まれる。はからずもそのまま噛んでしまい、サクッとした歯ごたえとともにチョコレートの香りが広がる。
甘ったるいチョコレートだが、パフになって軽やかな食感になり、イチゴの香料が合わさると不思議と悪くない味わいと思えた。
「……なるほど……悪くないな」
一口ぶんを飲み込んでから正直な感想を漏らせば、雪菜は「だろ?」と得意げな顔になる。
「あんたが普段食べる職人手作りのスイーツには遠く及ばないかもしんないけど、大量生産のお菓子だって侮れないものだよ」
雪菜が笑いながら手にしたジャイアントカプリコを自分の手元にやると、何の躊躇いもなくサクッとかじる。
「ん~うまい! やっぱこれだよねえ」
そう呟きながら顔を上げた雪菜は、一見元気そうに見えたが。
なぜだろう?
ほんの一瞬だけ。ほんのひと刹那――彼女は川面を眺めて、ひどく悲しげな顔を垣間見せる。
その瞬間――
どうしてか、私の心臓が大きく跳ねた。