Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



あまりに能天気で底抜けに明るく、粗忽なほどさばさばして性別を感じさせないさっぱりした女性。それが雪菜の印象だったのに、憂いすら感じさせる横顔に、どうしてか鼓動が速くなっていく。


何故か落ち着かない気分を鎮めつつ、私は暴れる心臓を押さえながら考察する。


(何なのだ、この動悸は? それから……顔が熱を持ったように火照るのは、何の症状だろうか?)


わずかだが肌がうっすらと汗ばんでいる。呼吸は……通常よりやや速い。脈拍数も2割ほど増している。熱はなさそうだが、逆上せたような火照りは不可解だ。


(今の時期に屋外という環境を考えると……導き出される可能性のうちのひとつは)


「熱中症だ」

「は?」


雪菜がこちらへ向く気配がしたが、私は構わずに立ち上がるとスタスタと木陰へ向かった。そして、飲み物を手にしたままハンカチを敷いてそこへ腰を下ろす。


離れてしばらく経てば症状は和らぎ、だいぶん落ち着いた。やはり環境が原因だったかと納得したのだが、何故だか雪菜は怒鳴り付けて隣へ新聞紙を敷き直した。

「出し抜けになんだよ! こんないい場所独り占めしようってズルは無しだ」


ぽすん、と雪菜が腰を下ろした瞬間――ふわりと薫ったのは、ベリー系の甘い匂い。


なぜかどくんと心臓が力強く脈打って、全身に衝動が駆けめぐる。何とかそれを抑え込むのに、理性を総動員せねばならなかった。


< 310 / 391 >

この作品をシェア

pagetop