Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
宮廷であまり力があるとは言えないが、古くから続く堅実な名家。母親は子爵家から嫁いでおり、両親の血筋も家柄も公爵家三男の妻としては申し分ない。
私としては爵位を得るつもりはまったくないが、現状として一番上の兄が公爵の爵位を継ぐため、現在は父が持つもう一つの爵位である伯爵となっている。
次兄は爵位など要らないと早々に官僚となり、父は引退し公爵の爵位を長男に譲った後、空いた伯爵の爵位を私へとお考えのようだった。
「おまえが将来国王陛下となられるカイ王子殿下の側近となるならば、爵位も後ろ楯も必要だろう。ブラウナー家はかつての勢いはないとはいえ、名門には変わりないからな」
父はマホガニー材の使われた書斎机の前で、顎を撫でながらそうおっしゃる。茶色かった髭も髪もいつの間にか白いものが混じり、顔に刻まれた年輪であるシワは確実に深くなっている。
公爵として国王陛下を40年近く支え続けてきた父は、今や60近い。最近は健康を損ねていくつかの持病を抱えている。
ホームウェアであるスラックスとシャツの上からでも、加齢による肉体的な衰えは確認できる。肩幅は変わらないが、大きかった背中がいつの間にか小さく見え悲しくなった。
(いつまでも父にとって私は心配のタネか……今、同じ年回りで合う貴族子女はブラウナー家令嬢しかいない。所詮政略だ……以前からそう決めていたではないか。父を安心させるため、縁談を受けようと)
何を、躊躇うことがあるだろう。カイ王子に仕えるなら私にも後ろ楯は必要だ。政治的駆け引きに使える手駒は多い方がいい。そう思い承諾の返事をしようと口を開くが。
どうしてか、雪菜の笑顔が頭にちらついてすぐに返事ができなかった。