Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
ふう、と息を着いたのは実家の屋敷にある三階の自室で。泊まるつもりなど一ミリも無かったが、父に“決めるまで退出は許さない”と命じられてしまった。
ここで暮らしたのは5つそこらになるまでで、後は全て首都にある別邸で暮らしているのだ。だからかあまり馴染みがない部屋はどこか冷たくて、私を拒んでいるように感じる。
(家における私の立場もそうかもしれないな)
実家に……この家に帰ってきたのは数年ぶりだ。だが、父以外誰の出迎えもない。皆それぞれ己の仕事で忙しく、末弟の帰省などとるに足りない出来事に時間を割く余裕などありはしまい。
年齢差がある上に早々に実家を離れ、数年に一度のみ帰ってくる弟。きょうだいにすれば家族という親しみや愛情は薄いに違いない。
「……だから、なおのこと皆の役に立たねばならないのだが……」
幼年期には馴染んでいた椅子に座ると、木製の脚がギシッと軋む。がっしりしたアンティークの机は、長年経過した時ならではの味わいがある。
……私も、このようになるはずだし。それを目標にしてきたのだ。
生涯かけてカイ王子に仕え、彼の治世を支えるどっしりとした揺るぎない重みのある存在へ。
カイ王子を、それ以上にヴァルヌスという国を護るために。
現代でも宮廷のあるヴァルヌスでは、貴族同士の結びつきは重要なポイント。有力貴族と婚姻で縁付くのは当然というのに……。
「……なぜ、私は返事ができなかったのだ?」
ぐしゃり、と髪をかきあげてそれを手のひらの中で握り潰す。
答えなど、誰も出してくれるはずもなかった。