Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
眠れぬ夜を過ごした翌日の朝食は、珍しく在宅する家族が揃った。
姉は3人ともそれなりの家に嫁いでおり、独立した長兄は屋敷を持ち、次兄は官僚専用のフラットに住んでいる。 それゆえ、今ここにいる家族は両親と末子の私のみ。
それでもこうして顔を揃えるのは数年ぶりだからか、母上が手ずから作られた手料理がテーブルに並んだ。
『アルベルト、あなたの好きなケースシュペッツレ(小麦粉、卵、牛乳を混ぜた団子にチーズや炒めた玉ねぎを加えた料理)を作っておきましたよ。たくさん食べなさい』
『……ありがとうございます、お母様』
ニコニコと優しい笑みを浮かべた母の中では、私はまだ5歳児と変わらないのかもしれない。昔は綺麗なブロンドだった髪も今やすっかり銀色へ変わり、美しいが年齢によるシワや弛みが隠せていない。
父も母も、いつの間にこんなにも年を重ねていたのだろう。わかっているようでも、やはり実際に目にするとその衝撃は段違いで。
娘たちが孫をなかなか連れてきて下さらないの、と母が話すのをぼんやりと聞きながら相づちを打つ。
『……アルベルトがここで暮らして下さると嬉しいのだけれど。わたくし達ももう年だもの。可愛いお嫁さんと孫と一緒に暮らせたら張り合いがあることでしょうね』
母が実にストレートにおっしゃって、頭を切り替えて彼女を見遣れば。心配そうな鳶色の瞳と視線がぶつかった。
『お父様からお聞きしてますよ、カイ王子の暗殺未遂で危険な目に遭ったのだと。
公爵家の子息であるあなたがそのような危険な真似をする必要などありません。
結婚を機に、カイ王子殿下のお側を辞して家にお戻りなさい』