Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
仕える主人の想い人の部屋へ夜に訪れる。
本来ならば決してあり得ない出来事だが、今から話すことは確かにファミレスで話すには相応しい内容ではない。 彼女の賢明さに感心しながら、アパートの一室に通された。
正直な話、桃花はカイ王子からの援助に頼って豪奢なマンションに住んでいるとばかり思っていた。コンシェルジュ付きのタワーマンションだとて市内にはある。そういった贅沢をしているという疑念を抱いていた。
今まで恵まれなかった女が身分も地位も高い人間と相思相愛になったなら、きっとその愛情に胡座をかいて贅沢を当然と享受するだろう。少なくとも私の回りの女どもはそうだった――だから、桃花を排除しようとしたものだが。
彼女が築何十年も経つような六畳一間の寂れたアパートに住んでいるとは思いもよらず。無意識に室内を見渡してしまった。
「一人ですから今のわたしにはちょうどいいんです。分相応というものですよ」
無遠慮な視線を怯む事なく受け止めた桃花は、笑ってアールグレイの入ったティーカップを小さなテーブルに置いた。ティーバッグで申し訳ないですけど、と皿に盛ったマカロンまで出してくる。
歓迎されない訪問のはずなのに、この歓待ぶりに違和感を感じながら単刀直入に切り出した。
「本日あなた様をお訪ねしたのは、近くに住むとある女性と交流を持っていただきたいからです」