Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「……………」
固まったままの雪菜の後ろで、おそらく彼女を誘ったであろう女性が軽く頭を下げた。
年齢から察するに、桃花の妹である桜花だろう。確かに彼女なら雪菜に年齢が近く、かつ社交的で今回の件を任せるに相応しい。感謝を込めて軽く会釈をすれば、自分の役割を終えたと察したらしく、席を立ち店を出ていった。
さすがに頭の回転が速いし、空気を察する力も高い。相当な美人でもあった。言っちゃ悪いが、雪菜と桜花を見比べればおそらく大多数の男は桜花を取るだろう。それだけの魅力は備わっている。
だが、私からすれば外見の美醜など取るに足らない要素だ。立場上金を掛けて磨き込まれた女性を見る機会はたくさんある。おそらく一般的な男性よりは。それゆえ、金を掛ければ女性はそれなりに見栄えが良くなると知っている。
だからこそ私は見目ではなく、本人の性質や性格で見たいのだ。
外見は金を掛ければいくらでも繕えるが、内面はそうもいかない。いくら違う人間を演じようと、所詮は限界がありいつかボロが出る。私だとてメッキに騙されるほど愚かではないつもりだ。
その点、雪菜はばか正直だ。これほど表裏一体となった人間も珍しい。素直と言えば聞こえはいいが、愚かとも言える。
それが、私には心地よい。
ストレートで悪意がない彼女に、あの時の私は救われたのだから。