Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編




「うわぁ……素敵!」


到着しドアを開いた途端に雪菜は車内から飛び出し、両手を広げて叫んだ。その笑顔は輝くようで、今までで一番明るく幸福に見える。


それだけで、無理をして連れてきてよかった。その価値があったと言いきれた。


私の財産でもある小さなログハウスのあるここら一帯は、すべて手付かずの自然が残っている。雪を戴く北アルプスの青い稜線が遠くに見え、短い夏を惜しむように様々な花が咲き誇り、近くには清涼な小川が流れ木々が揺らめき小鳥が囀ずる。そばにある森から、早速シカが顔を見せた。


本当に何もない。だが、やはり雪菜は大はしゃぎだ。


「すごい……すごいじゃないか! こんなキレイな場所なんて……連れてきてくれてありがとうな!」


雪菜はがっちりと私の手を掴むと、ブンブンと振り回す。おそらく彼女なりの感謝を表す方法だろう。


「いえ、喜んでいただけて私も嬉しいです。ぜひあなたに見せたかったですし、過ごしていただきたかった。ここならば気を張ることもないでしょう」


木造のログハウスのは小さな造りだが、電気も通っているし必要なものは全て揃っている。水道とガスはなく水汲みと薪割りが必要だが、2、3日の滞在なら珍しい体験と喜んでくれるだろう。


その話をすれば雪菜はやはりにっこり笑う。


「それくらい、任せろ! これでも林間学校のキャンプじゃかまども作れたんだ。薪割りも得意さ」


頼もしいことに、雪菜は胸を叩いて満面の笑みで引き受けてくれた。

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