Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「雪菜」
「お、おう。何だよ!?」
まだ顔が赤いまま、雪菜はこちらに目を向ける。睨んでいるように見えるが、照れ隠しなのだと私には判る。
フッと私が小さく笑えば、ますます顔の赤みが増す。面白いくらいに顔色を変える彼女に、問いかける。
「この場所は気に入ってくださいましたか?」
「ま、まあな」
両手を腰に当てながら、雪菜は周りをぐるりと見渡した。
「こんだけキレーで静かってのは最高だな! いつまでも居たいくらいだ」
「そうですか。もしもですが、その願いが実現すればずっと住みたいとは思いませんか?」
私が例え話をすれば、雪菜は「そりゃな」と景色を眺める。
「あたしさ、なんか昔っからちょいと人が苦手だったんだよな。たしかに、こういう場所は魅惑的さ。ずっと誰にも会わずに気ままに暮らせれば最高さ」
でも、な。
雪菜は振り返ると、体ごと私へ向かい合う。そしてツカツカと歩み寄ると、私のポケットにあったICレコーダーを手にして目の前に掲げてみせた。
「こんな姑息な手段を使わなくても、あたしはあたしの意思で選ぶよ。もしも許されるなら、あんたの側にいる。
けど、今すぐには無理だよ。だから、一旦お別れだ。
あたしはあたしなりに決着をつけて……あんたに会いに行くから、大人しく待ってな」
それまで、これは預かっておくさとICレコーダーを取り上げられて苦笑いする。
やはり、雪菜は愚かではなかった。二度と同じ失敗は繰り返さない。彼女は本当は何もかも解ってここに来たのだろう。
「わかりました……あなたをお待ちします、雪菜」
私の手のひらには、彼女からの贈り物である紫の花が風にそよいでいた。