Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
私の言葉を聞いたカイ王太子は、まるで苦虫を噛み潰したような顔になる。相変わらず気を許した相手にはストレートに感情を表す人だと苦笑いが漏れただろう。
『殿下の仰りたいお言葉は重々承知しておりますが、これが私たちに相応しいペースなのです』
『……確かに、な。人というものには分というものがある。いくらおまえが三男でも貴族の子息である事実は変わらない』
ふう、とカイ王太子は腕を組んで私を見上げた。
『おまえは叙爵を辞退したが、爵位を得た方が色々と都合がよかったのではないか?』
『いいえ。爵位を得れば身軽に動き回ることができません。むしろわたくしには足枷となりましょう。主君が要求を叶えるためには』
言外にカイ王太子の無茶ぶりを非難すると匂わせれば、彼はゴホンと空咳をして何やら書類を取り出した。
『おまえの言い分は解ったが、まだまだ旧体制にどっぷり漬かった時代錯誤な人間は多い。ハインツ公爵家と縁組みを望む年頃の娘がいる人間からすれば、女の影がない清廉潔白なおまえは格好の餌食だ。くれぐれも気をつけることだ』
今のところこれだけ縁談がある、とカイ王太子が手渡してきたリストは、どうやら極秘裏に入手した情報のようだ。そうそうたる顔ぶれに、いちいち脳内データを取り出しては大きな×をつけていた。
『いつまでも2人の愛があれば、という言い訳は通用しない。きちんと周囲を納得させたいならばけじめを着けろ。それが男として愛する者を守るための責務だ』
先に男として責任を果たしたカイ王太子の言葉は、私の胸にガシンと響くものがあった。