Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
正直に言えば、そろそろ限界を感じてはいた。
私が独身を貫く理由も、恋人の存在を隠し通すのも。
一部の口がさないお喋りスズメの間では、懐妊しているカイ王太子の妃の代役を私がしている、等と鳥肌ものの噂が立っているのも知っている。つまり、私がカイ王太子の夜のお相手を務めてるだとか。
くだらないことこの上ないが、噂とはバカにできない情報となる。いつしかそれが“当然の情報”として、当人に付随し見られるようになるのだ。つまりは他人が当人を見る色眼鏡やレッテルに付け加えられていく。
人間、よく知らない相手を判断する時は他人の情報をあてにするもの。多数の人間がそうだと言えば、当然そんな人間だと思い込むようになる。
たとえ後から違うとわかったとしても、一度思い込んだらなかなかそれから外そうとはしない。
カイ王太子とは当然そんな接触などないが(というか命じられたら確実に侍従を辞める)、父までが疑わしい目で私を見始めている。今まで私に恋人がいなかったという事実が噂に信憑性を与えているのだろう。
いつか恋人に逢わせますと両親に言い続けて5年。誤魔化すにも限界が来ている。カイ王太子がおっしゃったように、父もごり押しでも縁談をまとめて強引に結婚させねば、親として安心できないのかもしれない。
(さて、それではそろそろ私も本気を出しますか)
雪菜が何の意味もなく5年もの長い間日本にいた訳ではない。彼女とて己を高めるべく、最大限の努力をしてくれた。
(迎えにいきましょうか、雪菜。灰かぶりでないシンデレラを迎えに)