Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
しかしなぜかこのような時に限って、火急の用事が降ってくる。スマホに緊急時の着信があり、やむ無く席を立つ。
「申し訳ありませんが、少しだけ話してきます。なにかあっても応じてはいけませんよ」
私の注意に雪菜は黙って頷くと、それより先に出てやれと視線で後押ししてくれる。言葉に甘えて一旦店の外に出る際、害虫どもには更なる威嚇をくれてやった。
これでも雪菜に手を出そうとする愚か者ならば、こちらの立場や身分を活用させてもらう。社会的に少しばかり痛い目に遭っていただこう。
急くように震え続けるスマホの電話に出れば、その用件は。
「――は? 父上が勝手に婚約を決めた?」
『そうだ。早ければ今日の御前閣議で国王陛下の承認を得て、明日にも発表するつもりらしい。おまえの不在を狙い撃ちした形になるな』
知らせてくれたカイ王太子は極めて冷静に話しているつもりらしいが、長年仕えてきた私には判る。彼が今にも噴き出しそうだと。その銀に近いグレイの瞳は絶対笑いを含んでいるだろう。
「……わかりました。雪菜を連れて帰国します」
『それがいい。彼女は今や高宮の後ろ楯を得ている。ヴァルヌスのタヌキどもも蔑ろにはできないだろう』
「……そうですね。ご忠告、感謝します」
面白がるカイ王太子との会話をさっさと終わらせ、通話を切った。
カイ王太子が言ったように、今雪菜は高宮の後ろ楯がある。高宮の傍系ではあるが、子どもがない夫婦の養女とされたのだ。
無論、そのために雪菜は血を吐く思いで努力をしたのだ。今や粗雑な言動は一切見られず、むしろ品位すら感じられる“お嬢様”と生まれ変わったのだ。