Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



「なぁーいいだろ? ちょっとメシにいくだけだって」


ガラス張りのドアを開き喫茶店に戻れば、案の定雪菜に話しかける害虫が一匹。我が物顔で隣へ腰かけ、あまつさえ彼女の肩へ手を置いている。


その瞬間に駆除は決定したが、私は敢えて入り口の観葉植物の陰で様子を窺った。


「な、かる~く食べてかる~く飲むだけ。ぜったい楽しませてやるからよぉ」


ニタニタ卑下た笑いを浮かべ、派手なシャツを着金のアクセサリーをじゃらじゃら着けた、勘違いした害虫(おとこ)。この場で抹殺し、雪菜と同じ空気を吸うなと言ってやりたいほど汚らわしい。


雪菜は今のところされるがままになっている。以前ならまずぶん殴っていただろうが、ずいぶん辛抱強くなったものだ。


調子に乗った男は、雪菜に顔を近づけていく。それまで黙っていた彼女だが、肩に乗った男の手を取るとそのまま払いのける。


「……あいにくと、あなたのお相手をしている時間はございません」

「はぁ? ここで茶あ飲む時間はあるだろ」

「必要なことだから、ですの。彼は私の婚約者ですから」


雪菜はそうきっぱり言い切ると、害虫(おとこ)を強い意思の宿る瞳で見上げた。


「私には婚約者がいますから、彼以外の異性とはお茶もお断りします。ですから、よそをあたってください」


< 379 / 391 >

この作品をシェア

pagetop