Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「あ~スッキリしたわ!」
まさに“猫を被る”という言葉に相応しい雪菜は、ハイヤーから出て大きく伸びをする。
やはり彼女は生まれ変わっても雪菜だが、所作や表情や言葉遣いなどに以前の乱暴さは見られない。芯まで変えようと努力した痕跡が、そこまで彼女を変えたのだ。これならば人前に出ても恥ずかしくはないだろう。
「疲れましたか?」
「大丈夫、疲れてはないから。逆にセクハラ男を退治できて気分がいいくらい」
「それは頼もしい」
私が思わず微笑むと、どうしてか雪菜がポッと頬に朱を散らす。フイッとそっぽを向いて、「あれ、反則だよね」と呟いてた。
「どうかしましたか? 気分でも……」
「無自覚の天然タラシは黙っていてくださいね」
「はぁ……」
なぜか有無を言わせない迫力のある笑顔で言われ、そのまま大人しく口をつぐむ。そして、雪菜は降りた先でフワリと流された髪を押さえた。
「……懐かしいなあ、ここは」
「ええ」
雪菜の無意識の呟きに、私は答える。
Y川の河川敷――。
雪菜と私が初めてともに過ごした思い出深い場所だった。