Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「今も……まだ立派な人間って言えないけど」
雪菜は私に向き直ると、胸に手を当てて深呼吸。緊張した面持ちで震えた手をギュッと握りしめていた。
そして……
キッとこちらを見据えた雪菜は、まっすぐな眼差しを向けて大きく口を開いた。
「アルベルト、あなたが好きです。一生、あなたに着いていっていいですか?」
そうして差し出された薄紫色の花は……
2人で過ごした夏の思い出の花であるプリムラ。
プリムラの花言葉の一つは……愛。
きっと、あの時の雪菜はその意味も知らずに手近な花を摘んで私に贈ったのだろう。けれど、教養を深めた今の彼女なら十分に意味を解って告げている。
まさに一世一代の覚悟を決めて、私に告白しているのだ。
……まったく、と私は嘆息する。ピクッと雪菜の肩が揺れるが、苦笑いをして私は彼女の肩に触れた。
「そんなに怖がらないでください。あなたには本当に驚かされるばかりですが」
私は震える彼女の肩に腕を回すと、そっと抱きしめる。硬直した雪菜の耳元に、そっと囁いた。
「ありがとう……雪菜。私もあなたを愛しています。私の側から離しませんから、覚悟をなさってくださいね」
彼女の頭にキスを落として、そのさらさらな髪に指を通す。そして、雪菜が静かに涙を流す声を聞いた。
「……っ……アルベルト……私……ずっと……一緒にいる。何があってもあなたと生きていく」
ありがとう……
そう呟いた雪菜は私にしがみつき、初めて声を上げて泣いた。
彼女が孤独から解放された瞬間だった。