Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



『これで、長い間の苦労が報われたというわけか』


カイ王太子は突然椅子から立ち上がると、傍らに居た私の肩をポンと叩いた。今まで無かった出来事に何事かと思うと――彼は、微笑んでいた。


『アルベルト』

『はい』


カイ王太子は突然私の背中に手を回すと、こちらへ抱きつく。何事かと硬直した私へ彼はこう告げた。


『おめでとう。幼なじみとして、心から嬉しく思うよ。君がようやく幸せになれるのだから、こんなに素晴らしいことはない』

『カイ殿下……』


よもやそんなお言葉を頂けるとは思ってもみなかった。幼なじみとして――今、カイ王太子は主従の関係を越えて、私へ接して下さっている。


王子と臣下という枠ではなく、ともに育った人間として。いち個人として素直な気持ちを告げてくださったのだ。


不意に、目頭が熱くなる。


お仕えして約30年――それだけ長い間ともに過ごしながら、大人になるにつれ本音を明かさなくなっていった。


それは公人たる主君としては当然かもしれないし、むしろ私もそうあるべきと厳しく接してきた。


けれど、思い出すのは城下町での菓子屋。雪の中で食べたチープなお菓子の美味しさや幸せは、今もくっきりと胸に焼き付いている。


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