Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編
『……ありがとうございます。近々雪菜とご挨拶に伺います』

『そうか。だが、無理はさせるなよ? というか、本当に結婚式はしなくてよいのか? 新婚旅行も』


気遣わしげに私を見上げる彼に、私は知らず知らず微笑んだ。


『雪菜もわたくしも派手なことは不得手ですから』


そう告げている最中……なぜか執務室のドアが開いた。


『失礼します、王太子殿下。文部大臣が……』


開いたドアから顔を覗かせた侍女が硬直し、そっとドアを閉じる。失礼しましただとか何だとか聞こえたが、一瞬目が輝いたのは見逃さない。


ドア越しに、雄叫びが聞こえて……


そういえば、今カイ王太子が私を抱きしめたままの格好だったと気づく。


元より、私が雪菜を妻にしたことはまだ公表していない。時期を見極めて発表するつもりだったが、どうやら早めにマスコミに明かす必要がありそうだ。


『……カイ王太子……どうやら明日からは噂を消すのに躍起になる必要がありそうですよ、互いの妻のためにも』


かねてからあるカイ王太子と私のおホモだち疑惑。あの侍女はたしかそういった趣味があったはず。個人的嗜好をどうこうするつもりはないが、噂は尾びれどころかメダカがクジラほどに化けて独り歩きするに違いない。


(雪菜は信じてくれるでしょうが、さて。カイ王太子殿下は妃になんと言い訳するのでしょうか)


想像しただけで可笑しくなり、思わず笑ってしまったが。カイ王太子は咎めることなく『そうだな』とこちらも笑う。


久々に穏やかに時間が流れて、昔を懐かしむ空気が幼なじみとしての2人を近づけてくれた。


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