Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
ハイヤーでベルンハルト城を出て、向かうのはカッティエ市内の高級住宅街に建てられたフラット。マンションに近いが、メゾネットタイプなので一戸建てに近い。そこは広めの庭があり、住む時は一目で気に入ってくれたようだった。
『お帰りなさい』
『ああ、ただいま』
玄関で出迎えてくれたのは、無論雪菜だ。淡い水色のシャツに紺色のタイトスカート、白いエプロンドレスを着て髪をバレッタで纏めている。
今は、午後11時過ぎ。これでも早い方だが、雪菜はいつも寝ずに待っていてくれる。鬱陶しいとは思わないし、逆に健気さにいとおしさが募る。
コートを受け取った雪菜をそのまま抱きしめ、柔らかい身体を堪能した。彼女が頬を染めてうつむく恥ずかしげな表情が堪らない。そっと頬に手を当てると、軽く唇を合わせる。啄むようなバードキスをしただけで、彼女は耳まで赤くなる。
そのままベッドルームへ運びたくなるのを我慢しつつ、私は雪菜へと訊ねた。
『今日は何を?』
『パーム伯夫人とお茶を……それから、彼女に誘われて慈善事業に。あ、それから図書館で勉強をしたの』
『そうか。パーム伯夫人は今の宮廷でかなりの力を持っている。よく頑張っているな』
『お花のことでたまたま仲良くなっただけだから……』
私が頭を撫でながら褒めれば、雪菜は嬉しそうに照れ笑いする。大人にそれをすれば怒られるだろうが、幼い頃から肯定されることなく育った彼女は、頭に触れられることが大好きだ。
そのまま頭を撫でつつ、彼女の髪を指ですいて頭に口づける。あれだけ人付き合いが苦手だった雪菜は、ここでは積極的に社交的になり人脈を形成しているのだ。それも、夫の私のために。
これが、いとおしく思わずにいられるだろうか。
今晩はきっとベッドで彼女手放せまいな……と、ある種の確信に内心苦笑いを浮かべていた。