Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
祖父は頑丈なお身体であったけれど、王妃であった祖母に似た父は疲れやすく、すぐに熱がでて寝込むことが多かった。その上心臓に持病を抱えていて、幼い頃は二十歳まで生きられまいとまで言われたらしい。
けれど、両親の献身的な看護と最先端の医療で父は無事に成人をすることが出来、初恋の人であった母上――弥生を妃に迎えることが出来た。
かつて病床にあった父は、私に語ってくれた。
“弥生がいたから私はここまで生きられたのだ”――と。
“なぜですか?”
何も知らなかった幼い私は、とても不思議に思えた。誰かがいたから生きられるなんておかしい、と。
呼吸をし、水を飲み、食事をし、眠る。それだけで生きていけるんじゃないか……と父に正直に話した。
ベッドの上で弱々しく微笑んだ父は、痩せて細くなった指で私の髪をすいて頭を撫でてくれた。
“ひとは、生きるのに最も大切なものが必要なんだよ”
“確かに水を飲み、食べれば生きられる”
“だが、それだけだ。それだけでは本当の意味での「生きている」とは言えないんだよ”