Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
けれど、情けないことになかなか勇気を持てなかった。
10年ぶりにきっちり起きている桃花に会えたのに――いや。10年ぶりだからこそ、緊張して上手く話せる自信がない。
昔は恐れなど知らない子どもだったし、夏の夜の訪問は一方的なものだった。
今までちゃんと桃花と直に逢えたことがないんだ。だから、どうやって話しかけようか。自己紹介はきっちりすれば良いのか。何もかもわからなくて。
(もしも僕が原因であんな目に遭ったんだと解った時。嫌われたらどうしよう)
10年前の桃花は死の淵をさ迷い、ずっと悪夢に魘される深いトラウマを負ったんだ。雅幸からは聞いていたが、あんなに明るかった彼女は、人が変わったように大人しく内向的になったらしい。
今だって、わかる。
桃花があのまま成長したならば、桜花に負けないほど明るく人に囲まれる女の子になっていたはずだ。
(僕が原因で……桃花の人生を狂わせてしまったんだ)
直接の原因はあの女ではあるけど、自分が関わったせいで桃花が変わってしまったという罪は拭えない。
(……何を浮わついて再会を期待していたんだ……僕は)
桃花は、あんなふうに大人しく目立たない人間じゃなかった。いくら村田家を徹底的に潰したとはいえ、ノコノコとどの面下げて会いに行けるというのか。
(まずは謝罪と……責任を取ることが先だろう)
その時は情けないことに、桃花に声をかける勇気がどうしても出せなかった。