Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
だが、穏やかな寝顔が苦悶に満ちたものに変わるのに時間は掛からなかった。
「……たす……け……て」
誰か……と、かすれた声でひたすら救いを求める。
呼吸が荒くなり、真っ青な顔で震えながら、眉を寄せ苦しげで。私は思わず彼女に手をのばし、両手でギュッと抱きしめた。
かいた汗のせいか、しっとりとした肌はひんやりと冷たい。体温も下がってるのか……と、身体同士が密着するほど力一杯抱きしめる。鼓動がどくどくと荒く脈打ち、浅く速い呼吸が苦しそうだ。
(僕は……ここにいる)
無意識のうちに、桃花に話しかけていた。
「大丈夫、大丈夫だ。僕はここにいる。絶対に離れないし、いつだって桃花の味方だよ。誰が君を嫌ったって……僕は大好きだから」
一生懸命に励まそうと支離滅裂な言葉になったと思う。それでも、桃花の呼吸はゆっくりと深くなり、体温が戻ってゆるゆると表情が戻る。
穏やかな寝顔が戻った時に、気のせいだろうか。桃花の口元が綻んで……ありがとう、と確かに言葉を紡いだ。
優しい笑みに添えられた、艶やかな唇がたまらなく魅力的に見えて。
躊躇いがちに指先で触れてみて、しっとりとした柔らかさに心臓が爆発するかと思えた。
「……桃花」
呼んでみても、何の反応もない。おそらく完全に夢のなかにいるはず。
誘惑に完全に負けた私は、気がつけば桃花へそっとキスをしていた。