Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
とくん、とくんと鳴る鼓動が心地いい。初めて触れあった場所から、まるで春の暖かさにも似た幸せを感じる。
彼女を抱きしめたまま、一度だけでは足りずに二度、三度と触れるだけのキスを重ねる。色づいた彼女唇は、とても気持ちがいい。柔らかくてしっとりとして……あたたかくて。
頬に添えた手を離して、さらりと揺れる桃花の髪を指ですく。安心して身を預け眠る、眠り姫。今はまだ目覚めるキスができる王子ではないけれど……いつか。
「桃花……いつかきっと、君を守れる立派な大人になる。だから、どうか僕を忘れないで」
一方的なものだったけれど、8月の空の下で誓った。何もかも未熟な自分はまだ桃花の前に立てる資格はないんだ、と。
王族という生まれながらの権力を使うんではなく、自分の力で桃花を守れるようになりたいと強く願う。
それまでは義務で仕方なく武道を習っていたけれど。桃花を前にすれば、もっと自分を鍛えたいと感じた。
その日の夜は、目立たないように集団の中に紛れ込み桃花が作ったミモザサラダに舌づつみを打つ。彼女らしい優しい味に幸せを感じた。
(そうだ。僕も料理くらいはできないと恥ずかしいよな。さっそく誰かに習おう)
今まではヴァルヌスから着いてきた専任の料理人が全て食事を作ってたけれど、その料理人から徹底的に学ぼうと決意をした。