Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「君は、来年の3月までしか日本に居られないんだろう? 時間がないから、強引な手を使うしかないと思うよ」
実は葛城グループ総帥の息子だった彼の提案は、桃花を慕う藤沢さんをダシにして桃花を一緒のマンションに住まわすというもの。
「葛城グループのうち土地や建物の管理を引き受ける会社があるんだけど、水科さんの住んでるアパートの大家さんに格安でできる建て替えの話をしたら、案の定飛びついてくれたよ。あのアパートは築40年と古すぎて入居者も減ってたからね」
「……って、おまえ。そこまで手を回したのか」
桂木のそつの無さに眉を潜めていると、フフッと笑われた。何だか腹立たしいぞ。
「君が甘すぎるし、ぬるすぎるからだよ。まったく、じれったいを通り越し腰抜けと言ってもいい。恋ってのはハンティングと一緒で、危険を顧みず自ら追わねば捕まらないんだよ、カイ王子?
それとも君はそうやって手をこまねいているだけで、桃花が君に気付いてくれるとか思ってるのかな?」
桂木の毒を含んだ物言いはムカつくけど、確かに彼の言う通り。結局、桃花の気持ちを言い訳にして逃げてただけのヘタレだ。
春になったらヴァルヌスに帰国して、立太子する。正式に王位継承者として内外に報せて、次代国王としての責務が待っている。
そうなれば、お忍びだろうと日本にやって来ることなど滅多にできなくなる。つまり、桃花に会えないんだ。
――嫌だ、と思った。
だから、桂木の同棲案に乗った。卑怯な方法と知りながらも。