Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



「あ、あの! すごく助かったので……よかったらお昼をおごらせてください」


これは夢か、と思えた。


いくら手助けに感謝をしていたとしても、いつも自信がなくおどおどしている桃花が、自分からこうして誘ってくれるなんて。どれだけ勇気を振り絞ったことだろう。


今まで桃花から他の従業員に話しかけることは、仕事関連以外に滅多に見たことがない。ましてや、私情を交えた誘いなど。それが自分に向けて、だとしたら嬉しくないはずがない。


昼は外で取るとこちらから提案し、思い切って正体を告げてみるか? と考えてすぐ否定をする。


いや、そんな慌ただしく真実を話したくない。桃花を思ってきた20年はたかだか一時間の休憩時間に語れるものじゃない。どうせ話すなら、もっときちんと。プライベートに組み込んでちゃんと告げたい。


第一、自分が王子だということも明かす必要がある。他人がいる場所で話せる内容じゃない。身代わりなんてバレたら、国際問題に発展しかねない。


幸い、桂木と雅幸のツテでマスコミには圧力を掛けて多少のスクープやリークには直ぐ様対応出来るようになっているし、動画サイトやSNSにも手を回してある。だから、私らしき動画や記事が上がれば即刻削除対応になって流出は防げていた。


桃花にきちんと話すまでは……

今はまだその時期じゃないが、もっと間近に彼女を感じたい。そう考えて食事の件は断ったものの、後は桂木の提案に乗った。


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