Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
パートの大谷に桃花が何かを言われていた。村田の娘のしつこさに、うんざりする。
今日の担当であるカウンターから離れ、隅でくっちゃべるしか能がないバカに我慢ならなくて、在庫のチェックに向かうついでに足を止めた。
「好き勝手に喋るだけで給料貰えるなんざ、いいご身分だよな。アンタらって」
ギョッ、と目を見開いたのはもう一人のパート。大谷シンパのうちの一人だ。
そのパートは気まずそうに口をつくんでその場を離れたが、大谷(女)は図々しくオレを睨み付けてきた。面の皮の厚さはギネス並みだな。
「あなた、たしか二階の玩具売り場担当だったわよね?わたしが誰か判ってて注意してるのかしら?」
腕を組み挑むように顎を上げる。解りやすい威嚇姿勢に、不覚にも噴き出しそうになる。これほど解りやすい虎の威を借る人間は見てて面白い。
「ああ、確かに判って言ってるよ。大谷フロア長夫人サマ」
サマ、をわざと語尾を上げて言ってやれば、ますます眉尻がつり上がる。実に単純で面白い。
「そうよ! わたしはフロア長の妻だから、旦那に言ってあんたをクビにするくらい訳がないのよ。それが解ったなら、その生意気な口を……」
「そういうの、不当解雇って言うの知ってる?」
こちらこそ応戦してやらなきゃな、とわざと口の端を上げて笑ってやった。