Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
こういう手合いは、付け入る隙や話す隙を与える必要はない。どうせ出てくるのは意味がない、なけなしのプライドを守るためのペラペラに薄い勝手な自己主張だけだ。
「アンタさ、特定の従業員虐めて悦に入ってるみたいだけど……」
一度言葉を切って、更に笑みを深くする。だが、目は笑ってやらない。自分の顔が人に与える影響など知り尽くしている。将来は国政の一端を担う人間として当たり前だが、どんな微妙な表情の違いで最大の効果を挙げるか。そんなのは子どもの頃から研究済みだ。
今は、冷え冷えとした空気を纏って見えるだろう。今までだらしない愚鈍で冴えない男だと、そう印象付けてきた。そんな男の変貌ぶりに、大谷(女)に明らかに動揺の色が見えた。
「知ってる? アンタがしてきたことが、立派な犯罪だってことは。上手く揉み消したつもりかもしれないけど、バレバレだから。誰かが警察にチクれば、夫婦ともども逮捕されても文句言えないってこと。そうなれば夫婦揃ってクビだし。他人の心配より、自分たちの心配したら?」
「なっ……なによ!」
一瞬震えたものの、大谷(女)は拳を握りしめて睨み付けてきた。大した気の強さだが、虚勢だとバレバレだ。
「あんたこそ、訳がわからないこと言わないでよ! クビに気をつけるのはあんただわ。ダンナにすぐに言ってやるから、後悔しないでよね!」
「言っとくけど、これ以上余計なことしたら、オレはアンタを許さないよ」
もっとも、これはあくまでも警告。今でもぶん殴りたいほど憎たらしいが……桃花の為に我慢だ。