Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「私も南小学校に通ってたんだよ。裏に芝生があるでしょ。そこのどんぐりを食べちゃった同級生もいたんだよ」
「え、ホント? どんぐりって食べられるの!?」
「とっても昔の人はどんぐりが重要な食料だったんだよ。今でもちゃんと食べられるんだって」
桃花と会話をしてるのは、近くの小学校に通うであろう小さな女の子。どうやらプレゼントを買いに来たらしく、迷っているところに桃花が話しかけていた。
警戒心が強そうな女の子だったけれど、桃花の笑顔と巧みな会話術ですぐに肩の力を抜いていた。自然とこぼれる笑顔に、こちらまで幸せな気分になる。
桃花は心底こういう仕事が好きなんだ、と実感する。特に子どもを相手にしている時が一番生き生きとしている。彼女は自己評価が低いけれど、あんな温かな笑顔を自然に出せる魅力的な女性だ。今までどれだけ牽制してきたか、きっと知らないだろうに。
(将来……俺との子どもとああして微笑みあってくれたら)
きっと、桃花はヴァルヌスの国民に溶け込めるだろう。彼女が生まれ持った綺麗な気質は、凛として強い芯を持っている。
ぶれずに誰かの為に生きることができる桃花は、将来の王妃に相応しい。
(その前に、まずは口説かないといけないのだが……)
在庫管理表を脇に抱えながら、桃花がカウンターに向かうのを横目で見た。 どうやら決まったらしいな、と微笑ましく思いながらバックヤードの回転扉を潜った。