Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
大谷夫婦は案の定、桃花を閉じ込めるという手段を使いやがった。
だが、ある程度時間が経てば桂木が鍵を開けに来てくれるはずだ。 それまで桃花を冷やさないようにしないと……そう考えながら彼女に近づこうとした時。
控えめなすすり泣きの声が聞こえてきた。
オレが知る限りだが、桃花は滅多に泣かない。悪夢を見ていた時でさえ、恐怖に怯えながらも歯を食いしばって耐えていた。
きっと、普段から泣くまいと我慢に我慢を重ねてきたんだろう。親代わりとして妹を育てるために、どれだけ諦めてきたことがあるのか。
耐えに耐えて、大谷の今日のこの仕打ち。爆発しない方がおかしい。
今はまだ、泣かせてやろう。涙を流すこと――泣く時間というものは大切なことだ……オレも、父が亡くなった時は散々泣いて泣いて。その時間があったからこそ、自分の中で溶けていったものがある。
(桃花、君はもっと泣いていいんだ)
(彼女にとっては)誰もいない密室なのに、声を押し殺しながら泣く。どれだけ自分を殺しているんだろう……。居たたまれなくて、悔しくてならない。
好きな女が泣く声を聞くのは辛いが……自分の不甲斐なさを責められているかのようだ。
(大谷……許さないからな)
もうすぐ、本物の雅幸が帰ってくる。その時がアンタらの終りだ、と胸の中で呟いた。