Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
桃花が目覚めると思った直前に、慌ててプチプチに巻いて誤魔化しておいた。ろくに知らない相手から抱きしめられていたなんて知れたら、変態扱いされるかもしれない。
プチプチは別名エアパッキンと言って荷物の保護に使うが、空気があって暖かい。ひとまず防寒に桃花をそれにくるんだ後、様子を見に扉へ向かう。
(――おかしい。桂木が来ない)
桃花の腕時計をチラッと見れば、とうに時間は日付を変えた深夜。オレは高地で育ったし、普段からある程度鍛えてあるから平気だが、都会育ちの桃花にはキツイ寒さだろう。
何らかのトラブルがあって桂木が来られない事態になった、と見るべきだ。楽観的な予測はすべきではない。
ついさっき触れた桃花の体は冷たかった。だから暖めたが、防寒具のないここでどれだけの効果があるか。
(たしか、ここの扉は内側からでも鍵が壊せるタイプだったな)
防災の閉じ込められ対策の為に、一部の社員にだけ伝えられている方法。それはある場所に隠しているパネルの暗証番号を使うが、ご丁寧に暗証番号は変更までされていた。
ならば、物理的に壊すしかない。
幸い、桂木からは鍵をぶっ壊すポイントを聞いている。
桃花が熱を出しているんだ。躊躇う時間はない。
たとえ両足の骨が砕けようとも、血まみれになろうとも。必ず彼女を助けてみせる。
(そうだ、これはあの雪の日のリベンジなんだ)
必ず、絶対に助け出す! 固い決意で、何十回蹴りを繰り出しただろう。足首に激痛が走ろうが、構わずに続けて――鍵が開いたころ。ようやく桂木が駆けつけてくれる。
高熱を出した桃花はそのまま夜間診療所へ運び込まれた。